牛丼屋夜間アルバイト

看板も
店の電気も消えた駅前通りは
地球滅亡後のように暗くて静かです
最終電車から降りてこの町にいる者や
最終電車を逃してこの町にいる者が
すべての愛する者に死なれた
生き残りのような顔をして
この店にやってきます
「さあみなさん、生命の入ったどんぶりを
カウンターごしにお配りします
明日も生き残れるように」
私はここで生命を細かく刻み
朝まで機械のフリをして
どんぶりのことだけ考えているので
みなさん、いらっしゃいませ

お客はそこに卵をかけ
味わうことなくすすり込むけど
まったくそれでかまわない
味わうことなど
それほど重要ではない世の中です
どんぶりの中の生命に感謝されては
私が困ってしまいます
明け方どうせそれらの残りは
(必ず残るようになっています)
私の手でビニール袋に詰められて
(死骸ではなく残骸として)
ポリバケツに入るので
私だけを罪人にしないで下さい

24時間営業のどんぶりやは
暗闇の中で唯一、光を放って
生命を配っているので
空腹の人や
道に迷った人や
夜中に突然
何が何だかわからなくなった人は
どうぞいらっしゃいませ
どうせその一杯の価値は
私がここで一時間も立っていれば
おつりがくるくらいのものなのです
街灯に群がる虫のように
飛んで火に入る虫のように
どうぞこの明るい場所に
気楽にいらっしゃいませ

看板も
店の電気も消えた駅前通りは
地球滅亡後のように暗くて
月や星の明かりさえ
黒すぎるガスで消されて
だけど
私はいまだかつて一度も
始発の音を聞かない朝を
むかえたことはないので
安心してどんぶりを食べて下さい
樹液をなめる昆虫のように
光合成を繰り返す植物のように
私は生きてるだけで幸せなので
あの始発には乗らずに
朝になればぐっすり寝ます

「いってきまーす」の子供の声や
隣のお父さんが車庫を開ける音を
子守歌の代わりにして
そしていつもの時間には
必ずこの店で待ってるので
どうか
高いビルの上からや
駅のホームの下へなど
飛び降りたりせずに
生きてるだけで幸せな
のんきな私の店へ
今夜も「いらっしゃいませ」。


※ 99 キャスターポエムコンテスト グランプリ受賞作