■ 東成瀬村岩井川字村中25 ■

東京から車で七時間。
僕を待っている場所がある。
僕が待ち焦がれた場所がある。
風が吹き抜ける家の中から、
堰が流れる庭先へ出る。
目の前にまばゆい緑が清々しい稲田が広がり、
遠くには深い緑が清々しい山々が連なる。
お茶を飲みながら、ただその空気に身をまかせていると、
僕の前では、グー子とチロ二匹の犬が、
寝ぼけまなこで寝そべっている。
飲みかけの茶碗のふちに、一羽のトンボが飛んできてとまり、
くるくるとよく動く瞳であいさつをすると、
いっとき羽を休めて、また大空へ向けてゆらりと飛び立つ。
縁側では子猫のクロがあくびをして、
障子の陰では白黒の柄の大猫、ウシが目を細めている。
午後ももう遅い太陽は、西の山の麓で優しさを増し、
穏やかな一日のエンディングを待つ。
堰の流れの音は、ただただ気持ちよく、
風の声は、安らかに耳をくすぐる。
花壇で朱色のグラジオラスが揺らぎ、
遠くでウグイスが鳴き、耳もとでスズメが歌い、
足下で虫たちの話し声が聞こえる。
下から見上げれば、
青い空に浮かぶ梢。
見渡せば、
雑然と置かれたはずの畑仕事の道具が、
風景の中で無駄なく配置され、
父や母や妻や娘も、自然の一部として溶け込む。
充足の時間。
幸福の甘受。