鼓動


家の中で遊んでいたら
突然 床がぐらりとゆれて
その瞬間に お母さんが
ものすごくこわい顔をして
ぼくの上におおいかぶさった

ものすごく地面がゆれて
ものすごく大きな音がして
いろんなものがたおれた
ぼくは うつぶせになったまま
お母さんの悲鳴を聞いた

ものすごい重たさにたえて
お母さんの下で かたくなっていた

ようやく地面がゆれなくなって
うそみたいに静かになった
背中がつぶれそうだった
「重たいよ、お母さん」
そう言ったけど 返事がなかった

「お母さん、どいてったら」
さけんだけど 返事がなかった

何度もさけんだのに
ぼくの上にかぶさっている
お母さんは 動かなかった
なんだかすごく怖くなって
涙がボロボロこぼれた
しばらくのあいだ
そうしていた
ありったけの力をだして
お母さんの下からでようと
何度もがんばったけど
うつぶせのぼくの上には
太ったお母さんがいて
お母さんの上には
たくさんのものが重なっているみたいで
どうしてもだめだった

いつのまにか
疲れてねむってしまった


トク トク トク トク…
ぼくの背中がなにかをきいた


トク トク トク トク…

ぼくの上におおいかぶさった
お母さんの心臓の音が
お母さんの鼓動が
ぼくの背中をつうじて
ぼくの体にひびいていた

体じゅうから涙があふれて
ぼくはありったけの力をこめて
ものすごく大きな声でさけんだ
「ウワァーッ!!!」
「うちのなかでさけばないの。
ご近所迷惑でしょう」

いつも そうぼくをしかったお母さんは
今度はしからなかった
静かなお母さんを背おって
ぼくはさけびつづけた
さけびつかれると 少し休んで
そして また
さけびつづけた


長い 長い 時間がすぎて
知らないおじさんたちが
ぼくをたすけだしてくれた
「坊主、ひとりでよくがんばったなぁ」
おじさんがぼくの頭をなでて言った
「……ぼく、ひとりじゃなかったよ」
おじさんはなにも言わずに
ぼくの頭をもう一度なでた



トク トク トク トク…
あのとき お母さんの鼓動は
とちゅうから
そっと ぼくの鼓動にかさなった
そして
お母さんはぼくのなかにはいってきた
だから
ぼくはひとりじゃなかったし
これからも ずっと
ひとりじゃないんだ



そうだよね



     お母さん



そうよ

    
     ゆうちゃん