●ケンジとマーヤのフラクタル時空
  御影祐



 マーヤはマイヤーニに問いただした。
「導師、お聞きしたいことがあります。なぜ私が日本の一少年、山下賢治と関わるのでしょうか?」
 マーヤは穏やかに言ったつもりだったが、その言葉はとげを含んでいた。
 マイヤーニは微笑んだ。それはマーヤを包み込むかのような微笑だった。
「どうやらお前は山下賢治君の元へ行くことが不満のようじゃな。確かにその子の確定したタイムサイト映像は、以後なんの歴史的人物にもなっておらぬ 。だが、これからのタイムワープは普通の人を相手とするのじゃ。わかっておろうに」
 マイヤーニの言葉はだだっ子をあやすような響きを持っていた。だが、今のマーヤは自分のことしか考えられなかった。
「確かに」とマーヤは言った。「二十世紀末から二十一世紀に向かうタイムトラベルが、普通 の人を相手とすることは了解しています。しかし、この少年は私が関わっても全く変わっていないようです。彼はその後の人生を実りあるものにしていません。彼の作品を読んでみても、魂の知恵を学んだとは思えず、統合の人格者としてのしるしが何も見えないのです。導師は失敗するとわかっている相手を私に押しつけて、彼を変えろと言うのですか」
 するとマイヤーニの笑みは消え、厳しい顔になった。
「これは私の直感でもある。知っておるかな。あの年代の子ども達が五十代になった頃、世界はほぼ統一され世界統一機構が発足する。第一次機構代表団は必ずしも成功したとは言い難い。しかし、フロンティアとしての責務は充分に果 たした。その初代機構代表が中国のチャン・スー・シー。山下賢治君は十四歳前後にチャン・スー・シーとメールをやり取りしていた。さらにインドの、生命時間を発見したクルナーシャともメールを交わしている。偶然にしては後の偉大な人物と二人も交わっているのじゃ。いやいや、そんな偶然を重要視することこそ魂の知恵ではないか」